末梢静脈カテーテルは72〜96時間以内に入れ替えた方が本当に良いのか?

 

※本記事の内容をアップデートしたものを、
ウェブマガジン:地域医療ジャーナルに「末梢静脈カテーテルは7296時間以内に入れ替えた方が本当に良いのか?としてアップしています。
 
 
 
 
 
 
 
「何だか知らないけれどアメリカのどこか偉いところ(CDC)が”72〜96時間での入れ替え”を推奨してるらしいし、きっとそうした方がいいのだろう」
 
と、漠然と思っていましたし、初めて勤めた病院でもそれに則っていた(つまり定期的に入れ替えていた)のでそれで良いのだと思っていたのですが、最近、「うちの病院はルートがダメになるまで使う」という話や、72〜96時間という時間設定を支持しない研究を読んだりしたこともあって、今回まとめてみようと思います。
 
 
 
さて、ネットで探すとCDCの2011年のガイドライン
Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter-Related Infections (2011)
が無料で読めます。
 
 
 
大きく4つの推奨文がありましたが、それぞれに推奨の度合いが以下のようにカテゴリー分けされていました。
【Category IA】
実施のために強く推奨され、うまく設計された実験的、臨床的、または疫学的研究によって強く支持される。
 
【Category IB】
実施のために強く推奨され、いくつかの実験的、臨床的、または疫学的研究と強力な理論的根拠によって支持される。 または限定されたエビデンスに支持され、容認された実践(例:無菌操作)。
 
【Category IC】
州または連邦の規定、規則、または基準によって要求される。
 
【Category II】
実施のために提案され、示唆的な臨床研究または疫学研究または理論的根拠によって支持される。
 
【No recommendation】
エビデンスが不十分であるか、または有効性に関するコンセンサスが存在しない未解決の問題がある。

 

 
 
実際の推奨文は以下の4つです。
 
1.成人における感染および静脈炎のリスクを低減するために、72〜96時間ごとよりも頻繁に末梢カテーテルを交換する必要はない。[カテゴリー:IB]
 
2.成人における末梢カテーテルの交換には、臨床的に徴候が示された場合にのみ推奨されるものではない。[カテゴリー:未解決の問題]
 
3.小児においては末梢カテーテルは臨床的に徴候が示された場合にのみ交換する。[カテゴリー:IB]
 
4.ミッドラインカテーテルは特定の徴候がある場合にのみ交換する。[カテゴリー:II]
 
 
推奨文1の根拠としている研究は以下の3つでした。
 
 
 Maki DG, Ringer M.Risk factors for infusion-related phlebitis with small peripheral venous catheters. A randomized controlled trial. Ann Intern Med. 1991 May 15;114(10):845-54.[PMID:2014945]
 
「静脈炎のリスクは、カテーテル挿入後4日目までに50%を超えた。」
 
 
Lai KK. Safety of prolonging peripheral cannula and i.v. tubing use from 72 hours to 96 hours. Am J Infect Control. 1998 Feb;26(1):66-70.[PMID:9503115]
 
「72時間留置vs96時間留置で静脈炎の発生を比較。前向き非ランダム化比較試験。
計2503の静脈ルートが評価された。 全体の静脈炎の割合は6.8%であった。 72時間および96時間留置したルートの静脈炎発生率には有意な差がなかった(3.3% vs 2.6%、p = 1.000)。
1ヶ月で約300の静脈ルートが潜在的に72時間を超えて延長できる可能性があると推定された。また、炎症の徴候がないのにも関わらず72時間で215のルートが入れ替わっており、61のルートは96時間まで、19のルートは96時間以上を超えて維持していた。」
 
 
Tager IB, Ginsberg MB, Ellis SE, Walsh NE, Dupont I, Simchen E, Faich GA. An epidemiologic study of the risks associated with peripheral intravenous catheters. Am J Epidemiol. 1983 Dec;118(6):839-51.[PMID:6650485]
 

ロードアイランドにある複数の病院の院内感染のための標準化された前向きサーベイランスシステムの一環として、19803月から19822月に、末梢静脈カテーテルの静脈炎リスクに寄与する因子の相互作用を測定するための分析が行われた。

著者らは、入院日から退院日までの5161の末梢静脈カテーテルエピソードを有する3094人の患者を研究した。

静脈炎の全体的な割合は2.3%(118エピソード)であり、静脈カテーテル関連菌血症の率は0.08%であった。

静脈炎の発生に有意に関連する要因は、根底にある院内感染のリスク、カテーテル留置期間、エピソードの年代順および後者の2つの変数間の相互作用であった。

静脈炎の日特有の危険性の分析では、低リスクの診断を受けた患者のために、初期の末梢静脈カテーテルが96時間まで留置されている可能性があることを示した。

 
 
2011年のガイドラインですが、どの研究も意外と古いものばかりですね。ランダム化されていないものもあります。
 
それに、上記の内容を読んでも”72〜96時間”の強い根拠となるような研究であるようには思えないような気もします。
 
 
推奨文2で挙げられている研究は以下の3つでした。
※3つ目の研究は、ガイドラインでは2010年の研究を引用していたのですが、2015年にアップデートされている研究が発表されていたので2015年の方を読んでいます。
 
 Van Donk P, Rickard CM, McGrail MR, Doolan G.Routine replacement versus clinical monitoring of peripheral intravenous catheters in a regional hospital in the home program: A randomized controlled trial. Infect Control Hosp Epidemiol. 2009 Sep;30(9):915-7.[PMID:19637959]
 
「316人の患者を対象としたこの無作為化比較試験では、末梢静脈カテーテル交換を72~96時間に定期的に受けた患者と、臨床的に示された時のみ交換された患者の間で、静脈炎および/ または閉塞の発生率に差は見られなかった(76.8 events per 1,000 device-days vs 87.3 events per 1,000 device-days; P = .71)。血流感染はなかった。」
 
Webster J, Clarke S, Paterson D, Hutton A, van Dyk S, Gale C, Hopkins T.Routine care of peripheral intravenous catheters versus clinically indicated replacement: randomised controlled trial. BMJ. 2008 Jul 8;337:a339.[PMID:18614482]
RCT(n=755).対照群(定期的にルート交換)の患者376人中123人(33%)で、介入群(臨床的に徴候があった際にルート交換)の患者379人中143人(38%)で、静脈炎または浸潤のために、カテーテルが取り除かれたが、その差は有意ではなかった(相対リスク1.15,95%信頼区間0.95~1.40)。
 
 
Webster J, Osborne S, Rickard CM, New K.Clinically-indicated replacement versus routine replacement of peripheral venous catheters. Cochrane Database Syst Rev. 2015 Aug 14;(8):CD007798.[PMID:26272489]
合計4895人の患者を含む7つの試験がレビューに含められた。
エビデンスの質は大部分のアウトカムで高かったが、カテーテル関連血流感染(CRBSI)のアウトカムのために中等度まで低下した。
このダウングレードは、幅広い信頼区間によるものであり、これは効果の評価において高いレベルの不確実性を生んだ。 CRBSIは5つの試験(4806人の患者)で評価された。
群間にCRBSI率の有意差はなかった(臨床的徴候で交換:1/2365;定期的に交換:2/2441)。
リスク比(RR)は0.61(95%CI 0.08~4.68; P = 0.64)であった。
カテーテルを臨床的徴候があった時に交換したかどうかは、静脈炎率に差異は認められなかった(臨床的徴候で交換:186/2365;3日で交換:166/2441; RR 1.14,95%CI 0.93~1.39)。
この結果は、カテーテルを通した注入が連続的であるか間欠的であるかに影響されなかった。
1つの研究で全原因血流感染が評価された。この結果でも、2つのグループの間に差はなかった(臨床的徴候で交換:4/1593(0.02%);定期的に交換:9/1690(0.05%);P = 0.21)。
カテーテルのコストは、臨床的徴候で交換した群で約7.00 AUD(平均差(MD)-6.96,95%CI -9.05~-4.86; P≦0.00001)低下した。
 
 
 
2011年のガイドラインでは、結局、「時間に関しては現時点ではハッキリしたことは分かっていないが、『差がない』という研究ではカテーテル関連血流感染(catheter-related blood stream infection:CRBSI)について検討されていない」と述べています。
 
「検討されていないからとりあえず“72〜96時間“としておこう」ということでしょうか。
 
しかし、2015年のコクランの研究では、前述のようにCRBSIについても検討した研究を含んでいるので、この辺り次のガイドラインではどうなるのでしょうか。
 
最近の研究でも似たような結果でした。
 
Rickard CM, Webster J, Wallis MC, Marsh N, McGrail MR, French V, Foster L, Gallagher P, Gowardman JR, Zhang L, McClymont A, Whitby M.Routine versus clinically indicated replacement of peripheral intravenous catheters: a randomised controlled equivalence trial. Lancet. 2012 Sep 22;380(9847):1066-74. [PMID:22998716]
 
「静脈炎は、臨床的徴候で交換群の1593人のうち114人(7%)、定期的に交換群の1690人のうち114人(7%)発生し、絶対リスク差は0.41%(95%CI -1.33〜 2.15%)となり、これは3%の同値マージンの範囲内であった。」
 
Xu L, Hu Y, Huang X, Fu J, Zhang J.Clinically indicated replacement versus routine replacement of peripheral venous catheters in adults: A nonblinded, cluster-randomized trial in China. Int J Nurs Pract. 2017 Oct 9.[PMID:28990241]
 
RCT(n=755).対照群の患者376人中123人(33%)で、介入群の患者379人中143人(38%)で、静脈炎または浸潤のために、カテーテルが取り除かれたが、その差は有意ではなかった(相対リスク1.15,95%信頼区間0.95〜1.40)」
 
 
【感想】
 
とりあえず、現時点では72〜96時間の根拠はハッキリしていないということでしょうか。
  
ただ、まだハッキリしていないからこそ、慎重になる必要がある。ということから推奨文2の
 
  2.成人における末梢カテーテルの交換には、臨床的に徴候が示された場合にのみ推奨されるものではない。[カテゴリー:未解決の問題]
 
が導出されているのだと思います。
 
 
ただ、定期的なルート交換は、
 
・患者の苦痛になる
・コストが増大する
・スタッフの仕事量が増える
 
などのデメリットもあるので、この辺りはエビデンスの積み重ねが大切なのかもしれません。
 
 
 

最終更新 2017.10.13